世界情勢の認識がずれている志位和夫議長報告 9月21日 鈴木元

鈴木元
世界情勢の認識がずれている志位和夫議長報告 9月21日 鈴木元
 昨日20日の「赤旗」に志位和夫議長のヨーロッパ訪問が報じられた。訪問中毎日「赤旗」でその内容が報じられていたにもかかわらず、大半が重複で5ページにわたって掲載された。おそらく続いて本にして全党に講読が訴えられるだろう。5ページわたるので項目は膨大でその一つ一つにコメントするわけにいかず、全体を通じてその主要点について触れることにする。

(1)世界情勢の認識がずれている
 5ページわたる報告の中でロシアそして中国という言葉が一言も出てこない。ユーラシアの西と東で新たな軍事同盟強化の動きがあり、これにたいして平和への話し合い外交の必要性を説いているが、危機の原因をアメリカの軍事戦略としている。現実はどうなのか。ヨーロッパにおける平和の危機は、ロシアによるウクライナ侵略であることは明白である。長く中立国であったスウェーデンがNATO加盟に踏み切ったもロシアの動向に対する警戒であった。東ではどうか。中国が南シナ海・東シナ海において、一方的に領海・領土宣言を行い、ベトナム・フィリピン・台湾そして日本に対して一方的に覇権主義的行動を起し諍い事を作って来たのである。
 アメリカがロシアのウクライナ攻撃については非難し武器支援・経済制裁を行っているのに対して、ガザを攻撃しているイスラエルを糾弾しなどころか武器支援を行ていることはダブルスンダ―ドと批判してることは当然である。そのことを持ってロシアや中国の行動を非難しないことや、ましてや世界の緊張の原因をアメリカの軍事戦略にあるなどとずれた世界情勢認識は誤りであるし、世界を平和に導く上で障害となる。

(2)「闘ってこそ事は開かれる」などと感動するのはいいが、自らはどうだったのかの深い反省と事態打開のための闘いの改善が求められている。
 志位議長はフランスやベルギーの闘いを聞き、彼らの「闘ってこそ事は開かれる」との話に感激していた。しかし志位議長を先頭とする日本共産党はどうしてきたのか。
1)先進国における闘いは、イデオロギー闘争、要求実現を目指す国民的闘い、それを基礎とした運動組織の拡大強化・統一戦線、自治体を含めた選挙闘争、党建設など多岐にわたる。しかし志位議長を先頭とする共産党は、しだいに選挙と党勢拡大に一面的にシフト化し党を疲弊化させ衆議院議員の数は41名から10名に、「赤旗」の部数は380万部から85万部におよそ1/4,に減ってきたのである。その原因を「敵の攻撃である」として自らのやり方を謙虚に分析することも、責任を明確にすることもなく過ごしてきた。ヨーロッパの党から「85万部とはすごい」とほめられると380万部から減ってきたことは言わず100万部を目指していると語っている。
2)この30年間、日本では労働者の賃金は横這い、実質的には低下してきた。それに対して欧米では25%の賃金引上げがを勝ち取ってきた。欧米で共産党・左翼政党が増えてきたわけではない。日本の労働組合は企業別・正規労働者だけの組合としてきた。そのため企業が高度成長しているときは賃上げが行われたがバブル崩壊以降の経済停滞の時代は賃上げは実現せず今や組織率は16%になっている。それに対して欧米では産業別個人加盟制労働組合として非正規労働者も組織し同一労働同一賃金、最低賃金引き上げのために闘ってきた。しかし日本共産党もこの状況を打開するために粘りづよく長期にわたって闘うことをしないできた。今回のヨーロッパ訪問で学んだことを謙虚に実行するかである。
3)志位議長の報告を聞いているとヨーロッパでは共産党・左翼が髣髴と前進しているように聞こえる。そんなことはない。マスコミで報じられているように、この10年あまり移民排斥自国中心主義を掲げる右翼勢力が急激に支持を広げ自治体の首長選挙だけではなく国政レベルでも政権を争うところまで来ている。左翼政党ましてや共産党の飛躍など起こっていない。志位議長の報告で党員や支持者が「ヨーロッパでは左翼・共産党躍進の時代」と思えば、それは違うと言わざるを得ない。日本でも2021年衆議院選挙、2022年の参議院選挙で衆参ともに憲法改悪勢力が2/3を獲得した。ヨーロッパの左翼・共産党と話し合うなら、この右翼的潮流とどう闘い克服するかこそ議論し深めるべき課題てあったと指摘せざるを得ない。少なくとも「頑張っている」とほめられて喜んでいる事態ではない。

(3)志位議長がヨーロッパで語ったことは、相も変わらず「共産主義の実現は先進国が大道」「共産主義=自由論、自由に使える時間論」のおしゃべりであった。
1)マルクスは資本主義の矛盾の克服として社会主義・共産主義を語り、1847年48年の「共産主義の原理・共産党宣言」において、その革命はイギリス・フランス・ドイツ・アメリカなどの先進国で、同時に起こると説いた。それから170年経ったが、そうしたことは起こらなかった。にもかかわらず志位指導部は「共産主義の実現は先進国が大道」と言い出した。その馬鹿さかげんを覆い隠すために「共産主義=自由論=自由時間の増大」を説きだした。かつて「70年代の遅くない時期に」といっていた民主連合政府さえ「21世紀の遅くない時期に」と100年単位のこととして言っているのだから、共産主義社会の実現など200年300年単位先のことである。その「共産主義になれば自由世界になる」など現実政治の世界では何の意味も持たない現実逃避の論である。
2)これらの批判が気になっているのか、志位氏らは自由時間論の根本的解決は資本主義を脱した共産主義社会であるが、現在の闘争としても重要であると言い出した。そして21日の「赤旗」において、労働時間規制法の提案「1日7時間制、週35時間制」を打ち出した。私は当然のことだ思う。戦後労働基準法が出来た時以来「1日8時間、週48時間」は変わってきていないのだから、日本の労働組合運動は何をしてきたのかと言われても不思議ではない。しかし今日の労働者に取って労働時間短縮は最大・唯一の課題であるのか。日本の労働者の40%、青年・女性では50%が非正規であり低賃金「無権利」で困っている。日本の労働者全体に取って最大の課題は正規化雇用による賃上げと権利の拡大である。そして職場内か近接での保育所の整備、安くて文化的な住宅の提供などで、安心して結婚・出産・子育てが出来る環境の整備である。労働時間の短縮は重要な課題であるが日本全体の労働者を考えれば、それが第一・唯一の課題ではないだろう。ところで気になることであるが日本社会の最重要課題の一つが、少子・高齢化・人口減少問題であるが共産党の政策・方針では今のところ少子・高齢化・人口減少問題はまったく触れられていない。
 最後に党大会決定の読了党員がいまだに3割であるにも関わらず、9月17日付け「常任幹部会声明」では第二回中央委員会総会の「全党への手紙」の討議支部が80%、手紙への返事を書いた支部が45%で「新たな決意で党づくりの挑戦に編み出す流れを作るりだしてきました」などと、およそ党の組織活動についてお粗末な認識を示し、別のところで「赤旗」5ページに及ぶ志位議長のヨーロッパ訪問報告を読むことが、中期的闘いの確信をもたらし総選挙勝利への確実な力になるなどと述べている。そんなことを言ってる限り全党のエネルギー効果的に発揮することは出来ないだろう。

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