鈴木元氏の新刊紹介③ 6月2日のfacebookの投稿から

鈴木元
新刊紹介 その③
「世の中を変えたいあなへ 時代と向き合ったある庶民の80年の記録」(あけび書房)
推薦、内田樹 神戸女学院大学名誉教授 安斎育郎 立命館大学国際平和ミュージアム終身館長
 表紙の絵は「週刊新潮」の表紙絵を20年間描いている成瀬正博画伯が彼独特で迫力ある絵を描いていただきました。
今回は、あとがき を紹介します
7月発売を予定しています。是非多くの方が購入し読んでいただくとともに周りの方々への紹介・普及に協力してください。
 あとがき
 八〇歳を前に『世の中を変えたいあなたへ―時代に向きあって生きたある庶民の八〇年』を書き上げた。今、読み返してみて、波瀾万丈の人生であったし悔いはないと実感する。
 さてこれからどうするかであるが、とりあえずは旅に出るつもりである。そのために家財は最小限まで整理する予定だ。もう一つは、ほんのわずかな財産をいかにするかという問題がある。妻の悠紀子には専用の郵便口座を作った。年金はそこに入り、そこから自動引き落としで特養の費用が支払われるようにしてある。そして少しまとまったお金も入れてあるので、私が先に亡くなっても、たった一人の妹にもお金で迷惑はかからないようにしてある。私のお金だが、子どもや孫などの遺産相続者はいない。公的対象として考えていた母校立命館も六〇年間所属してきた共産党も、もはやまとまった寄付の対象にはならない。旅行と国際協力事業に使い果たして死んでいきたいと考えている。
 しかし、人は生き方を選べても死に方を選べない。短いか長いかは別にして晩年の何年かは人の介護を受けて生きることになる。だが「要介護」者になっていないと、あらかじめどこの施設に入るかを決められない。しかも病気で倒れ、要介護者になるとは決まっていない。ある日突然、交通事故や自然災害、海外で無差別テロに遭って死ぬかもしれない。したがって信頼できる法律事務所に遺言状を預けておかなければならないだろうと考え出している。
 さて以上のような「老人じみた」考えはこのへんにして、私が実際に行うこととして考えていることについてである。何年か後に、可能な国際協力事業を進めながら、①社会(世界)の進歩的変革について根本的に考え直すというテーマだ。私が六〇年間所属していた共産党は停滞・衰退し始めてからもう長い月日が経っているのにもかかわらず、伸びていた時代の路線に固執し、ますます急速に自壊し衰退している。なぜそうなったのか、どこに打開の道があるのかを根本的に解明したい。基本的には『ポスト資本主義はマルクスを乗り越えて』『志位和夫委員長への手紙』『さようなら志位和夫殿』で書いてきたが、もう一歩深めたいと考えている。
 探求しなければならないことについて、いくつか例を挙げておく。
 ① 私たちが直面しいる重大な問題―気候変動・核戦争の危機・極端な貧富の格差の進展―そのほとんどが人類的課題である。これらの解決は、国際的な連帯により国連などの国際機関の場で解決が図られる問題であり、いずれも一〇年、二〇年と長期の闘いの上で進展するものである。そのためには一定の専門的知識が必要だし、一人で多くの課題に係わることはできない。したがって、それぞれの人たちが、それぞれの問題に一〇年、二〇年の運動にかかわっていることを認め合う活動スタイルが必要である。つまり一つの課題で期日を決めた同一行動(例えば、従来型の春闘での賃上げ)は例外となっていく。
 ② こうした行動の積み上げに基礎を置きながら、国際連帯で核兵器禁止を求める政府の樹立などが必要である。そのためには、国民の過半数を結集した統一戦線の結成が不可遊である。こうした政府は一歩前進すれば一歩後退するなどのジグザクの道を歩むことは、かつて革新自治体ができても次の首長選挙で敗れ交代た経験から明らかであり、一度の選挙で「革命政府」などできることはなく、緩やかな革新の積み重ねとなる。
 ③ これらの運動・統一戦線を長期に安定的に進めるには、各種運動の統一が必要である。
 原爆を投下された日本における原水禁運動が分裂していることは国際的運動を進めるためにもマイナスである。
 欧米の労働者が、この三〇年間で二五%程の貸上げを実現してきたのに、バブル崩壊以降の日本では、同時期にほとんど貨上げが進まなかった。欧米の労働運動は産業別個人加盟制度のもと、非正規労働者も組織して統一的に闘っててきた。それに比べて、日本では企業別正規労働者だけの組合である。資本の側は経団連や商工会議所として統一しているのに、労働側はナショナルセンターが分裂している。原水禁運動も労働運動も過去の行きがかりを捨て、無条件統一を図るべきである。
 高学費を止めさせ学費無償化を実現するためには、当事者である学生の運動の再生が必要である。ただ、戦後日本で行われてきた全員加盟制自治会の統一による全学連の再建・統一は無理だろう。学生個人の緩やかな連帯組織の形での運動の統一を図っていくことが必要だろう。
 ④ こうして緩やかな長期の運動で社会変化を求める時代において、豊かな生活を求める運動が個人の生活を犠牲にするような運動では、多くの人々を参加を実現するなどはあり得ない。個人の生活を大切にした運動の確立が求められている。
 ⑤ 健全野党の中心に座るべき共産党の衰退は国民的悲劇である。その再生が求められている。
 その再生のためには、共産党はマルクス・レーニン主義(科学的社会主義)と民主集中制を放棄し、革新・共同を求める普通の民主主義的政党に変わる必要がある。志位議長は、あいも変わらずマルクスの著作の断片を取り出し「共産主義=自由」論を展開している。その論の中身に入る以前に、日本一国で資本主義を止めて社会主義・共産社会に向かえるわけではない。日本における複雑な直面する困難な問いから目をそむけた観念的空想論である。民主集中制の弊害については、今まで述べてきたので省略する。
 その際、最近注目し直している一人が柄谷行人氏であり、彼の本を読み直して思考の整理を図っている。
 ① 柄谷氏が提起しているのは資本主義と国家の問題である。共産党は最近盛んに「未来社会論」として「共産主義=自由な社会」を論じている。しかし資本主義や国家をなくす(死滅)は日本一国で実現などできない。これだけでも共産党の理論的破産は明確である。マルクスやエンゲルスは一八四七年に「共産主義の原理」を発表し、先進国における同時革命を説いた。それから約一八〇年経ったがそのような動きはなかった。このことについてどのように理論的整理を図るかが問われているので自分なりに整理してみたい。
 ② 今日、もう一人、私が注目しているのがフランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏である。彼は国・地域ごとの家族システムの違いや人口動態に着目する方法論によって「ソ連の崩壊」や「アラブの春」「トランプ勝利」「英国のEU離脱」などを予言してきた。マルクス主義と全く異なる手法で社会を分析している点で、いろいろと教えられる点がある。世界の現状で考えなければならないのが、第一次世界大戦で滅びた「帝国」が復活しつつある。つまりロシア、トルコ、インド、中国の大国化の下に「帝国」の版図を取り戻そうとする動きをどのように見て、どのように止めるのかという問題である。
 ③ そのこととも関係するが、近代フランス革命やアメリカ独立戦争で打ち立てられた民主主義が、いまや世界的に独裁的傾向を強めていることをどう見て、どのように克服するかという文明史的問題である。
 ④ アメリカの国際的地位が低下する中で、トランプが主張する「アメリカ第一」は「NATOや日米安保から手を引く」との主張へ遷移している。こうしたこととかかわって、日本の国家のあり方を第二次世界大戦後以来、初めて旧来の枠組みを変えて追求し直さなければならないところに来ている。
 当然のことであるが、核兵器・原発、気候変動などの人類的課題の解決のために国際的連帯行動が求められている。そしてここにきて急速に明らかになっているのが、中国の急激な人口減少である。日本の人口減少も深刻であり今後の日本のあり方を探求するにあたって避けられない問題となっている。しかし中国の巨大市場が前提となって、世界の企業は「中国へ、中国へ」と貿易・投資の拡大を進めてきた。その中国の人口が減少しはじめ、今世紀末には半分以下になることが予測される事態となっている。
 国際的には、今後人口が増えるインドを初めとする南アジア、イランなどの西アジア、そして決定的なのはアフリカで今世紀末には世界の人口の二〇%を超えると予測される。日本人の大多数はこれらの地域に対する知識はほとんど持っていないし行ったこともない。日本の国際戦略を根本的に変える必要がある。併せて、中国国内では福祉制度が国民に行き渡る前に超高齢化社会が登場し、生存に係わる大きな社会問題が浮上する。中国政府がこの問題に適切に対応できなければ、人類が経験したことがない国家的混乱が生ずる危険がある。隣国である日本や韓国はどう対応するのか。深い検討と現実的な政策が求められるだろう。
 この四つを当面、国際協力事業を行いながら理論的格闘を行いたいと考えていることを記して、あとがきとしたい。

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